不動産投資用物件の売却に必要な費用は?安く抑える方法も解説
不動産投資で収益物件を売却する際は、さまざまな必要が発生します。それら費用を忘れていると想定した売却益が得られなかったり、ローンの完済がおこなえなかったり、思わぬ失敗につながりかねません。
そこで今回は、収益物件の売却時に必要な費用と相場について解説します。またできるだけ費用を安く抑える方法も紹介するので、これから収益物件の売却を予定している人は、ぜひ参考にしてください。
不動産投資用物件の売却で必要なおもな費用
不動産投資用物件の売却時にはさまざまな費用が発生します。どういった費用がいくらくらいかかるのか知らないまま収益物件を売却してしまうと、想定していた売却金額を受け取ることができなくなる可能性が高くなるため注意が必要です。
売却物件の種類や取引形態などによって発生する費用は異なりますが、多くのケースで以下のような費用が必要になります。
仲介手数料
不動産会社を通じて物件の売買契約が成立した際に支払う成功報酬です。
仲介手数料は、宅地建物取引業法で上限額が定められています。そのため不動産会社は上限を超える仲介手数料は受け取ることができません。
【仲介手数料の上限額】
◦売買価格が200万円以下 :(売却価格×5%)+消費税10%
◦売買価格が200万円を超え400万円以下:(売却価格×4%+2万円)+消費税10%
◦売買価格が400万円超え :(売却価格×3%+6万円)+消費税10%
仲介手数料は売買契約が成立時に支払う成功報酬です。売買契約時に半金を支払い、物件の引き渡し後に残りの額を支払うのが一般的です。
ただし、次のケースでは売買契約が成立していなくても仲介手数料の支払いが必要になるため注意が必要です。
◦手付解除
売買契約締結後であっても手付解除期日(通常30日間)までであれば、原則理由を問わず、売主または買主の事情で契約を解除することが可能です。
その際は、買主は手付金を放棄することで、売主は手付金を返金し、さらに手付金と同額を買主に支払う必要があります。
この場合、契約が成立していませんが仲介手数料の支払いが必要です。
◦違約解除
売主・買主のどちらかが契約違反(債務不履行)によって契約が解除されるケースがあります。たとえば売買代金の未払いなどが該当します。
この場合も契約が成立していませんが、不動産会社に仲介手数料を支払う必要があります。
印紙税
売買契約書に貼付する印紙代金です。売買契約書は売主と買主それぞれに1通ずつ作成するため、印紙税も各々が負担します。
印紙税額は売買契約書の記載金額によって異なりますが、記載金額が10万円以下を超えるもので、平成26年4月1日から令和9年3月31日までの間に作成される契約書については印紙税の税額が軽減されます。
【軽減措置後の印紙税額】
引用:国税庁『No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置』
登記費用
不動産の売買時には、売主側・買主側それぞれ以下のような登記費用が発生します。また登記手続きを司法書士に依頼した場合は、1万円~3万円程度の報酬が必要です。
売主側
売却する物件に抵当権が付いている場合は、抵当権抹消登記が必要です。抵当権抹消登記は不動産1物件につき1,000円となり、土地と建物それぞれにかかります。
買主側
不動産を取得した場合、所有権移転登記が必要です。所有権移転登記費用は、土地と建物それぞれにかかり、固定資産税評価額に所定の税率をかけて算出されます。
なお税率は、所有権移転の理由によって異なり、売買時の税率は以下のようになります。
◦土地:2%(2026年3月31日までは1.5%)
◦建物:2%
ローン返済手数料
ローンの残っている不動産を売却する場合は、売却時にローン残債を一括返済する必要があります。その際は、一括返済手数料がかかるのが一般的です。
ローン返済手数料は、金融機関やローン契約内容などによって異なります。ローン残債にかかわらず手数料額が一律の場合もあれば、元金×○○%というケースもあるため、あらかじめ金融機関に確認しておくとよいでしょう。
譲渡所得税・住民税
不動産を売却した際、売却益に対して譲渡所得税・住民税が課せられます。売却価格そのものではないため注意しましょう。
譲渡所得税・住民税は、まず譲渡所得を計算し、その数字に対して税率を掛けて計算します。
◦譲渡所得=売却価格-(購入価格+購入時の諸経費+売却時の諸経費)-特別控除
◦譲渡所得税=譲渡所得×税率
税率は物件の保有期間によって異なります。
【譲渡所得税・住民税の税率】
不動産を売却した年の1月1日において所有期間が5年間を超えていれば長期譲渡、5年以下であれば短期譲渡となります。
なお譲渡所得税・住民税は売却益がなかった場合には課税されません。
賃料・敷金
オーナーチェンジで物件を売却する際、翌月分の家賃を前倒しで入居者から受け取っている場合は引渡日以降の家賃は買主の収入になります。そのため引渡日から日割計算して買主へ支払う必要があります。
また、入居者から預かっている敷金についても買主に引き渡す必要があります。
不動産投資用物件の売却時に費用(その他)
不動産売却時には上記で紹介した費用のほかにも、以下のようなケース次第で発生する費用もあります。
リフォーム・室内外クリーニング費用
売却する物件の状態は売却価格に影響します。そのためリフォームやクリーニングをおこなうことで売却しやすくなるケースがあります。
軽度の汚れや傷みであれば、そのままでも問題はありません。しかし内装や建物に大きな破損や目立つ汚れがあるなど、買主側に不安を与えるような場合は、ある程度のリフォームやクリーニングをおこなうことをおすすめします。
なお、一般的な室内クリーニング費用はワンルームで2万円程度、1LDKで3.5万円程度が目安になります。
ただし、リフォームなどに高額の費用をかけ過ぎてしまうと売却価格が上がってしまい、買主が見つかりにくくなる場合もあるため、どの程度の費用をあてるかなど慎重に判断する必要があるでしょう。
測量費用
不動産を売却する際、買主から境界確認書や確定測量図を求められるケースがあります。また隣地との境界が確定していない場合も測量が必要になります。
境界確定と測量費用は30万円~100万円程度が相場となり、売主が負担するのが一般的です。
解体費用
物件を更地で売却する際は、建物の解体費用が必要になります。解体費用は、構造や立地、敷地面積などによって異なります。また敷地内の樹木の撤去やアスベストの撤去などは、付随工事費用として別途必要です。
坪あたり構造別の解体費用の目安は以下のようになります。
◦木造:4~5万円
◦鉄骨造:6~7万円
◦鉄筋コンクリート造:6~8万円
不動産投資用物件の売却費用を安くするには?
収益物件の売却時にはさまざまな費用が必要ですが、これら費用を抑えることができればより多くの売却代金を受け取ることができます。ただし、すべての費用を安くできるわけではありません。
ここでは売却に安くできる費用の種類と、その方法を紹介します。
仲介手数料を安く抑える方法
仲介手数料は収益物件売却時の費用の大部分を占めます。そのため仲介手数料を減らすことができれば、それだけ多くの売却代金を受け取れます。
仲介手数料を安く抑えるためには、不動産会社に交渉したり、手数料の設定が安い会社を選んだり、いくつかの方法があります。
専任媒介契約を結ぶ
不動産会社に不動産売却の仲介を依頼する際、「専属専任媒介契約」を締結することで、仲介手数料の値引き交渉に応じてもらえる可能性があります。
専属専任媒介契約は、契約する不動産会社は1社だけで、オーナー自身が買主を探すこともできない契約です。そのため不動産会社は確実に仲介手数料を得ることができるため、仲介手数料の値引き交渉がおこないやすくなるのです。
仲介手数料が安い不動産会社を選ぶ
不動産会社によっては、仲介手数料を半額や無料にしているケースがあります。ただし、仲介手数料が安い会社はサービスが良くないなどのデメリットを伴うこともあるため注意が必要です。
買取業者を利用する
不動産を買取業者に直接買い取ってもらう場合には、仲介手数料は発生しません。仲介会社と買取業者に物件の査定を依頼し、査定価格に差が少ない場合は、仲介手数料が必要ない買取業者に売却したほうが得になるケースがあります。
印紙税
印紙税を安くするためには、以下の3つの方法があります。
1通の売買契約書をコピーする
作成する売買契約書を1通にして、もう1通はコピーで対応する
コピーには印紙が不要なので1通分の印紙代で済みます。
ただし将来的なトラブルになり裁判になった場合、証明力はコピーのほうが弱くなる可能性があるため注意が必要です。
電子契約をおこなう
印紙税は書面によって交付された文書に必要です。そのため、不動産売買契約を電子契約でおこなう場合は印紙税の課税の対象にならず、印紙代がかかりません。
消費税別の金額を売買契約書に記載する
売買契約書に記載する金額の表記を変えることで税区分が変わり、必要な印紙税が安くなる可能性があります。
たとえば「1,100万円(税込)」と記載した場合、印紙税は1,100万円に課税されるため1万円(軽減税率適用時)の収入印紙が必要です。
しかし「1,080万円(税抜価格1,000万円 消費税額等100万円)」と記載した場合、課税対象となるのは1,000万円となり、印紙税は5,000円(軽減税率適用時)で済みます。
金券ショップで購入する
金券ショップでは、額面より安い金額で収入印紙を購入できます。ショップによって販売額は異なりますが、額面よりおおむね1%~2%安い金額で販売されています。
登記費用
不動産売買時の登記手続きは、司法書士に依頼すると1万円~3万円程度の報酬が必要になります。ただし、登記手続きは自分でおこなうこともできるため、費用を抑えたい場合は司法書士に依頼せず、自分でおこなうとよいでしょう。
ただし登記手続きは手間がかかります。また自分でおこなうと書類などの不備があるケースも考えられるため、登記手続きに慣れていない人や時間がない人にはおすすめしません。
不動産投資用物件の売却手順
ここでは収益物件を売却する際の手順を紹介します。
STEP1:不動産会社へ売却を依頼する
まず不動産会社へ売却を依頼し、媒介契約を結びます。
スムーズに不動産を売却できるかどうかは不動産会社の力量に大きく左右されるため、不動産会社選びは慎重におこなう必要があります。
不動産会社を決める際は次のポイントを重視しましょう。
◦売却実績が豊富である
◦売却物件の周辺の土地情報に詳しい
◦営業店舗数が各地に多数ある
◦提案やアドバイスが多い
◦連絡を密にしてくれる
STEP2:購入希望者を探す
不動産会社は、売却物件を不動産売買ポータルサイトや自社ホームページへ掲載したり、チラシを配布したり、さまざまな媒体を通じて営業活動をおこない購入希望者を探します。
また購入希望者の内覧案内や問い合わせの対応もおこないます。
なお不動産売買は価格交渉がおこなわれるケースがほとんどです。交渉に備えてあらかじめ売却価格の下限を設定し、不動産会社に伝えておきましょう。
STEP3売買契約を結ぶ
買主と合意したら売買契約を締結します。
売買契約当日には、売主と買主が不動産会社などに集まり、売買契約書と重要事項説明書の内容を確認し、署名・押印します。
売買契約が成立すると、買主は売買代金の10%程度の手付金を売主に支払います。残金は引渡し時に支払います。
なお、仲介手数料もこのタイミングで50%支払い、残り50%は引渡し時に支払うのが一般的です。
STEP4引渡し
引渡し日当日には、登記関連書類の確認、残金の支払い、登記申請などをおこない、鍵の引渡しをもって売買契約は終了となります。
STEP5確定申告・納税
不動産を売却して売却益が出た場合は譲渡所得税・住民税を納めるために確定申告をおこない、売却益に応じた税金を納付します。
不動産投資用物件をできるだけ高く売却するためのポイント
ここでは不動産投資用物件をできるだけ高く売却するためのポイントを紹介します。
相場を調べておく
できるだけ物件を高く売るためにも、まずは売却物件の相場を把握しておきましょう。
物件の相場を把握することで、相場よりも安い金額で売却するといった失敗を防ぐことにつながります。
物件価格の相場を調べる際は、収益物件ポータルサイトなどで周辺の類似物件を調査することで、おおよその相場観を把握できます。
価格だけでなく、周辺で売りに出されている物件の種類や件数などを調査しておくと、より参考になります。
高く売れるタイミングを狙う
収益物件を高く売るためには、売却に適したタイミングを狙うことも大切です。具体的には以下のタイミングがおすすめです。
物件価値が上昇しているとき
地価の上昇などで物件価値が上昇しているタイミングであれば、相場よりも高く売却できる可能性があります。
大規模修繕工事の前
大規模修繕工事には高額な費用がかかります。そのため、大規模修繕費が売却益(見込み)を上回る場合は工事前に売却することで出費を抑えられる可能性があります。
物件が満室のとき
収益物件が満室時は、収益性が高いとみなされ買手がつきやすくなります。
逆に空室が多い場合は、購入後に入居者を探す手間がかかるため、売れにくい傾向があります。
まとめ
不動産投資用物件を売却する際には仲介手数料をはじめ、さまざまな費用が必要です。特に仲介手数料は物件の売却価格によって決まるため、大きな支出につながります。
また売却益が出た場合は譲渡所得税・住民税が課せられます。その際は、忘れずに各手申告をおこないましょう。
こういった収益物件の売却時に必要な費用や税金を把握していないと、思わぬ損失につながるケースもあるため十分注意しましょう。