不動産投資で合同会社設立は節税になる!法人化のメリットや注意点
不動産投資の規模が大きくなり個人の所得税が重くなってきたら、法人化を検討する不動産投資家のかたも多いでしょう。
法人化するにあたって、どの形態の会社にしようか迷ったときは設立コストが少ない「合同会社」をおすすめします。それ以外にも法人化することで得られるメリットは多いです。
今回は不動産投資で合同会社を設立するメリット・デメリットや、株式会社との違いについて解説します。法人化を目指している大家さんは、ぜひ参考にしてください。
不動産投資で法人化できる会社の種類
不動産投資の規模が大きくなってくると視野に入るのが「法人化」です。法人化するにあたって、まずはどの会社形態にするのか決める必要があります。
現在、日本で新しく設立できる会社の形態は、「株式会社」「合同会社」「合名会社」「合資会社」の4種類です。
それぞれ特徴がありますが、合資会社と合名会社はほかのふたつと比べると設立件数が少ないです。法人化する場合は、それぞれのメリットとデメリットを比較しやすい点から、株式会社か合同会社のどちらかを選ぶとよいでしょう。
合同会社とは
合同会社は「出資した人自身が経営をおこなう」のが特徴です。ようするに出資者と経営者は同一となります。
そのため、合同会社の意思決定は社員が同意することで正式な決定となり、比較的スムーズに物事を決めることが可能です。
また株式会社には「決算公告」が義務になっていますが合同会社は不要です。
株式会社に比べて自由度が高い合同会社ですが、知名度や社会的信用度では、株式会社が勝っています。
また資金の調達面でも株式の発行ができないこともあり、多額の資金を集めるのには向かない会社形態だと言えるでしょう
株式会社とは
株式会社は「株式を発行して出資してもらう形態の会社」です。
国内の大手企業のほとんどが株式会社であるため、会社の形態の知名度は非常に高く、合同会社と比較すると社会的信用度も大きいです。
信用度の高さから金融機関の融資も受けやすく、株式も発行できるため、幅広い資金調達をおこなえるのが株式会社のメリットのひとつと言えるでしょう。
株式会社は、株を発行することで資金を出資して株主になった人が会社の所有者となり、経営者とは異なるのが原則となります。
そのため株式会社は意思決定のために株主総会を開催し、決議を取る必要があります。会場の用意や各株主へ株主総会の案内をおこなうため、開催までに時間がかかる場合が多いです。
また株式会社では、1年に1度、株主や債権者などに向けて、会社の決算状況を公開する「決算公告」をおこなう義務があります。
さらに株式会社の役員の任期は「通常2年(非公開会社は10年まで)」であり、その期間ごとに更新が必要となります。
合同会社に比べると手間がかかるのが、株式会社のデメリットとなるでしょう。
合同会社と株式会社どちらがいい?
合同会社にも株式会社にも、それぞれメリットとデメリットがありますが、どちらか選ばなくてはならない場合は、以下のポイントを判断基準にするとよいでしょう。
株式会社を選ぶ際の判断ポイント
◦将来的に株式上場を考えている
◦多額の出資を受けたい
◦中規模以上の経営がしたい
◦会社としての信頼度を高めたい
◦創業者利益を享受したい
合同会社を選ぶ際の判断ポイント
◦できるだけ少ない費用で法人化したい
◦節税のために会社を作りたい
◦ひとりで起業したい
◦小~中規模の経営がしたい
◦許認可や入札などの関係で法人格が必要
◦役員同士を対等な関係にしておきたい
不動産投資で合同会社を設立するメリット
不動産投資は、個人でおこなってもある程度の節税効果が期待できます。しかし個人事業主がおこなえる節税対策には限度があります。
さらなる節税効果を得たいと考えるのであれば、やはり合同会社などを設立し、法人として不動産投資をおこなう必要があるのです。
ここでは合同会社を設立することで得られるメリットについて解説します。
関連記事:不動産投資で会社設立のメリット・デメリット!法人化の流れも紹介
法人税が適用される
所得金額が高額な場合、所得税よりも法人税のほうが低くなる可能性があります。
個人の課税所得額が900万円以下の所得税率は23%ですが、900万円を超えると所得税率は10%も上がり、33%になります。
【所得税の税率表】
【法人税の税率】
引用:国税庁『No.5759 法人税の税率』
一方、法人税の場合は、資本金1億円以下の法人であれば、年間所得800万円以下の法人税率が15%、800万円を超えた部分は23.2%になり、それ以降は所得が増えても税率は変わりません。
このように課税所得が900万円になると所得税率が法人税率を上回ります。ようするに所得が高額になるほど、所得税に比べて法人税の方が税負担をおさえられるのです。
よって課税所得が900万円を超えた場合、法人税率が適用される合同会社などを設立することで節税につながるのです。
経費計上できる範囲が広がる
個人に比べて、合同会社を設立して法人になると経費計上できる範囲が広がります。
経費を収益から差し引くことで所得を減らせるため、結果的に税金を減らすことにつながるのです。
法人が経費計上できるおもな費用には、以下のようなものがあります。
◦役員や社員への報酬
◦福利厚生の費用
◦健康診断の費用
◦生命保険料(法人契約の場合)
◦社会保険料(健康保険、厚生年金)
◦出張などで支払った日当
◦住宅費(社宅の場合)
◦慶弔費
◦退職金
このように個人事業主では経費計上が認められなかった費用が、法人化することで経費として認められるようになるのです。
赤字を10年間繰り越せる
個人事業主の場合は、確定申告で青色申告を選んだ場合のみ赤字の繰り越しがおこなえましたが、最大3年間でした。
法人は最大10年間ものあいだ、赤字の繰り越し計上ができます。黒字の年でも過去の赤字分と相殺することで所得が減り、結果的に節税につながります。
給与所得控除を適用できる
合同会社にすることで、自分や家族に毎月役員報酬を支払うことができます。支払った役員報酬は経費として計上できるだけでなく、個人の所得に「給与所得控除」として適用することで課税対象となる所得が減り、節税につながるのです。
減価償却費を任意償却できる
合同会社の場合、減価償却する金額を任意で決めることができます。個人事業主でも減価償却による節税効果はありましたが、毎年一定額の減価償却費を計上しなければなりませんでした。
しかし合同会社では、たとえば利益が大きくなった年は減価償却費を多く計上することで利益を圧縮し、課税される税金をおさえるなど、納める法人税のコントロールをおこなえるのです。
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相続税や贈与税を大幅に節税できる
合同会社の財産は財産相続の対象外となるため、会社を引き継いだ人は相続税や贈与税を課せられません。そのため、個人で財産を受け継いだ場合と比較すると、大きな節税効果が得られます。
また会社を引き継ぐ人以外の相続人を会社の役員にし、役員報酬という形で財産を移転することで贈与税の節税につながります。贈与税は個人から贈与を受けた財産に課税されますが、役員報酬は贈与税の対象になりません。
将来的に相続がおこなわれる可能性がある場合は、合同会社を設立することで事業継承による税金をおさえることができます。
不動産投資で合同会社を設立するデメリット
さまざまな節税効果が得られる合同会社の設立ですが、その一方で次のようなデメリットがあることを理解しておきましょう。
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設立には費用や手間がかかる
合同会社の設立には、登記代などの費用が必要です。また会社を設立するには所定の手続きが必要になるため手間もかかります。
合同会社の設立にかかる費用の目安と内訳
合同会社の設立には、次の「法定費用」と「その他費用」が必要です。
【法定費用の内訳と目安額】
◦定款用印紙税:40,000円
◦定款用の謄本手数料:2,000円
◦登録免許税 :60,000円(または資本金額の0.7%のうち高いほう)
合同会社の設立に必要な法定費用は約102,000円です。上記以外に会社実印・銀行印・角印の作成代金、印鑑証明など提出用書類の発行手数料として15万円程度を準備しておけばよいでしょう。
ちなみに株式会社を設立する際の法定費用の目安は222,000円~242,000円です。これに15万円の印鑑作成費用などが加わります。
株式会社の設立費用に比べると、合同会社設立にかかる法定費用は約半分で済みます。
株式会社にこだわりがないのであれば、設立費用が少なく手続きも簡易な合同会社をおすすめします。
また電子定款を選択した場合、印紙税は無料です。設立費用をおさえたい場合は電子定款を選びましょう。
なお登記手続きなどを司法書士に依頼した場合は、別途報酬が必要になります。
会社運営のランニングコストが必要
合同会社を運営するためには、さまざまなランニングコストが必要になります。
また個人で不動産投資をおこなっているときと比べて、法人の会計は複雑です。また役員や従業員の社会保険へ加入や年末調整などをおこなう必要があります。
帳簿付けや年末調整の決算書作成は個人でおこなうこともできますが、詳しい知識を持っていない場合、正しく処理できるとはかぎりません。専門的な知識が必要になるため、税理士などの専門家へ報酬を支払い依頼するのが一般的です。
さらに合同会社の場合、従業員の社会保険料を負担しなくてはなりませんし、法人住民税は赤字でも納付する必要があります。
合同会社を設立する際はこういったランニングコストについても、しっかりと把握しておきましょう。
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不動産投資で合同会社を設立する手順
ここでは合同会社を設立する際に必要になる書類や手順を紹介します。
1:基本事項を決める
まず会社に関する基本事項を決めます。
◦社名:社名はなんでもかまいませんが、かならず「合同会社」を付けなくてはいけません。
◦本店所在地:事務所を借りない場合は自宅でもかまいません。
◦資本金の額:法律上は1円で設立も可能です。しかし資本金が少ない場合、信用力が劣ると判断されるリスクもあるため、ある程度の額を用意しておくとよいでしょう
◦決算期:1年以内であれば自由に決めることができます。
◦社員構成:代表社員の人数や役割を決めます。
2:定款の作成
定款とは、会社の根本原則を記載したものです。書式に決まりはありませんが、「絶対的記載事項」を記載しておかないと無効になってしまうので注意が必要です。
なお法務局のホームページに用意された定款のひな型を参考に自分で作成することもできますが、手間などを考えると司法書士に作成を依頼すると安心です。
ただし、司法書士に定款作成を依頼した場合は別途報酬が必要になります
また紙の定款では4万円の収入印紙が必要ですが、電子定款の場合であれば不要です。
3:会社の印章を注文する
登記では会社の印鑑を届け出る必要があります。社名が決定したら、できるだけ早く実印や銀行印、角印などを注文しておきましょう。
4:資本金を払い込む
定款で定めた資本金を払い込みますが、合同会社設立前なので会社名義の口座はまだないため、自分の預金口座から出資金の金額をいったん引き出して、入金し直しましょう。
払込みを受けたと証明する書面(払込み証明書のひな型は法務局のホームページを参照)と預金通帳や取引明細書を合わせて添付し、保管しておきます。
5:設立登記の申請をおこなう
会社(本店)の所在地を管轄する法務局などに登記申請をおこない、登録免許税を納付します。
設立登記の申請には、以下のような書類が必要になるので、あらかじめ用意しておきましょう。
◦合同会社設立登記申請書
◦登録免許税の収入印紙貼付台紙
◦定款
◦代表社員の印鑑証明書
◦払い込みを証する書面
◦印鑑届書
なお、必要な書類は定款の記載内容などによって変わります。詳細については法務局の登記相談窓口や司法書士に確認しましょう。
6:設立後の手続きについて
登記の完了によって会社が設立されました。
このあとは、年金事務所や税務署、役場への書類の提出が必要です。また、合同会社名義の口座の開設手続きもおこないましょう。
各窓口で必要になる書類や手続きは、以下のようになります。
金融機関への提出書類と手続き
金融機関にて合同会社名義の口座を開設し、自分の口座から資本金を移しましょう。
年金事務所への提出書類と手続き
年金事務所には、「健康保険・厚生年金保険新規適用届」と「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を提出します。
家族を被扶養者にするときは「健康保険被扶養者(異動)届」も提出しましょう。
税務署への提出書類と手続き
会社(本店)所在地を管轄する税務署に「法人設立届出書」と「給与支払事務所等の開設届出書」を提出します。
役場への提出書類と手続き
本店所在地の都道府県税事務所、または市町村役場窓口に「法人設立届出書」を提出します。それぞれの地方自治体で書類名や手続き方法、担当窓口が異なる場合もあります。詳細はそれぞれの地方自治体にて確認しましょう。
まとめ
個人で不動産投資をおこなっていて税金が重いと感じてきたら、法人化を検討してみましょう。法人化することで税率が下がり、節税につながる可能性が高まります。
不動産投資で法人化を検討する場合、合同会社と株式会社のどちらかを選ぶことになりますが、できるだけ設立費用をおさえたい場合は合同会社がおすすめです。
ただし会社を設立することで、会計処理などが複雑になったり、ランニングコストが増加したり、デメリットについても理解しておく必要があります。
法人化を検討する際は、ぜひ当記事を参考にしてください。