不動産投資で運転資金の借入がむずかしい理由!借入方法はある?
事業をおこなっている「運転資金」をいう言葉を耳にする機会もあるでしょう。なかには「不動産投資でも運転資金を借りられないか?」と考える人もいるかもしれません。
しかし基本的に不動産投資(不動産賃貸業)は「運転資金を必要としない産業」と認識されています。そのため不動産投資の運転資金を金融機関から融資を受けるには非常にハードルが高いといえます。
しかし運転資金の融資を受けられる可能性がまったくないわけではありません。
今回は、そもそも運転資金とはなにか、なぜ不動産投資で運転資金を借入れるのがむずかしいのか、借入れる方法はあるのかなどについて解説します。
そもそも運転資金とは?
運転資金とは、「会社を経営するために必要となる費用にかかるお金」のことをいいます。
たとえば製造業の場合、材料を仕入れるお金が必要ですし、販売業であれば、商品を仕入れる資金がかかります。
そのほかにも人件費やオフィスやテナントを借りているのであればその家賃も必要です。これらのように「会社や店舗が日常的に事業を営んでいく」ために必要なお金全般を運転資金と呼ぶのです。
もし運転資金が不足すれば、仕入れができなかったり、従業員を雇えなかったり、家賃や光熱費を払えなかったりといった、なんらかの形で事業の継続が困難になりかねません。
しかし製造業や販売業の場合、作るための原料や売るための商品を仕入れる必要があり、先行してそれら仕入に対する支払が発生します。
その場合、売掛金や在庫などが現金として戻ってくるまでの期間と買掛金などが現金で出ていくまでの期間の差(収支ズレ)が生じるため、それを埋めるために運転資金が必要となります。
これら運転資金は金融機関から借入で賄うのが一般的です。
運転資金と設備資金の違い
運転資金のほかに「設備資金」というものがあります。設備資金とは、事業をおこなうにあたって一時的に必要となる資金のことです。
たとえば、土地や建物、車両、事業に必要な機械、事務所や店舗内の設備や備品(パソコン・コピー機・事務用品など)が該当します。
そのため不動産投資における収益物件の購入費用も、設備資金のひとつと考えられるでしょう。
不動産投資の運転資金は借入がむずかしい?
そもそも運転資金が必要なのは売掛金や在庫などが生じる産業にかぎられます。
そのため、家賃という「現金」が収入となる不動産賃貸業は、基本的に売上代金回収までの資金繰りのつなぎの必要性がありません。
そのため不動産賃貸業は基本的に運転資金を含めて、「途中で多額のお金が必要にならない=運転資金を必要としない産業」といわれています。
不動産投資では、収益物件を購入する際に融資審査がおこなわれ、その物件が十分な収益を上げられることを前提に融資がおこなわれています。また不動産投資ローンの返済原資は収益物件で得られる家賃収入です。
金融機関は「貸したお金に利子を付けて返してくれる」からこそ、収益物件の購入費用を融資してくれます。
ようするに、金融機関は不動産投資で毎月しっかりとキャッシュフローを得られていれば、不動産投資にかかる費用(月々のローンの返済金やランニングコスト、大規模修繕費など)はまかなえるはずと考えているのです。
では不動産投資中に物件オーナーが「運転資金を融資してほしい」と金融機関に申し込みをした場合、金融機関は「不動産賃貸経営中に運転資金が必要になる=賃貸経営で十分な収益を得られていない=経営状態が悪い」とみなします。
先に述べたように金融機関は、「貸したお金に利子を付けて返してくれる」ことを前提に融資をおこないますから、経営状態が悪いとみなされてしまっては当然ですが融資を受けるのは困難になります
ただし不動産賃貸業だからといって、かならずしも運転資金の融資がされないかというとそうではありません。不動産賃貸業であっても、運転資金として融資が認められるケースもあります。
不動産投資で運転資金の融資を受けるためにできること
では、不動産投資で運転資金として融資を受けるためにはどのような方法があるのでしょうか。不動産投資で運転資金の融資を受けるためには「資金の使い道」が非常に重要になります。
◇効果的な事業計画書を作成する
◇これまでの不動産投資の収益の実績
◇不動産投資の融資と返済の実績
◇面談時に運転資金の使い道を説明する
◇運転資金の融資を受けやすい金融機関は「日本政策金融公庫」
ただし融資審査の判断基準などは金融機関によって異なります。しっかりした事業計画書を提出して黒字経営であっても、融資審査に通るかどうか最終的な判断は金融機関次第であることを覚えておきましょう。
効果的な事業計画書を作成する
前述したように金融機関は、「貸したお金に利子を付けて返してくれる」という根拠がなければ融資をしてくれません。
「お金を貸してほしい」と申し込むだけでは融資審査を通過することはむずかしいでしょう。
そのため「借入れたお金をなにに使うのか」「借入れたお金を投資することで見込める効果や収益」を記載した事業計画書の提出が非常に重要になります。
たとえば、築古物件のリノベーションでお金が必要だとします。その際、融資担当者を納得させられるよう、事業計画書にはリノベーションをおこなうことでどのような効果や利益(入居率の改善や家賃の増額など)が見込めるかを明確に記載する必要があります。
一般的に事業計画書に記載する内容に根拠があり、詳細であればあるほど融資審査に影響を与えるといわれます。
ただし融資を引き出すために効果的な事業計画書を個人で作成するのはむずかしいかもしれません。
その場合は、税理士や中小企業診断士などの専門家に相談し、事業計画書の作成代行などを依頼することも視野にいれておくことをおすすめします。
これまでの不動産投資の収益の実績
これまでの不動産投資の収益の実績(黒字期間)を事業計画書に記載、または別表として作成したものを添付して提出しましょう。一般的には、収支計画書などで3~4年黒字がつづいていることが確認できれば問題ないといわれています。
不動産投資の融資と返済の実績
金融機関が融資の判断をする際、これまでの融資と返済の実績も反映されます。そのため、まったく付き合いのない金融機関よりも、融資を受けている金融機関の方が審査に有利になります。
ただし滞納履歴など、金融機関にとってマイナス要因がある場合は審査に不利になるため注意が必要です。
面談時に運転資金の使い道を説明する
運転資金の使い道などは事業計画書に記載するだけでなく、金融機関の融資担当者と面談する際にも「なぜ運転資金が必要なのか」「融資によりなにを実現したいのか」と質問されるでしょう。
その場合は、「リノベーションをおこなって入居率を上げるため」「最新設備を追加して家賃額を上げるため」など、今後の賃貸経営の拡充などを目的とするとよいでしょう。
使い道をはっきり答えられなかったり、「資金繰りが悪化して……」などネガティブな回答だったりすると審査に不利に働くこともあるため注意が必要です。
担当者に納得してもらえるような説明ができるよう、しっかり準備しておくとよいでしょう。
運転資金の融資を受けやすい金融機関は「日本政策金融公庫」
運転資金にかぎらず、融資を申し込む際は、融資が受けやすい金融機関を申し込みましょう。おすすめは政府系金融機関の「日本政策金融公庫」です。
詳しくは後述しますが、日本政策金融公庫では不動産投資ではなく、事業である「賃貸経営」として融資をおこなっています。つまり賃貸経営という事業のための運転資金と判断されれば、融資を受けられる可能性が高くなります。
また取引のある金融機関であれば運転資金の融資がおりやすかったり、金融機関側から運転資金について打診されたりというケースもあるようです。
いずれにせよ、不動産投資の運転資金融資はほかの業種と比べるとハードルが高いです。しかし実績があれば融資を受けられる可能性もあるため、常日頃から安定した賃貸経営を心がけることをおすすめします。
日本政策金融公庫は、日本政府が100%出資した非営利の金融機関で、略して「日本公庫」と呼ばれることもあります。日本公庫の基本理念は、民間金融機関の取り組みを補完し、日本の中小企業・小規模事業者や農林漁業者など、事業に取り組む方々を支援することです。
そのため、「国民生活事業」「農林水産事業」「中小企業事業」に係わる個人や法人の「事業」を対象に融資をおこなっています。また、若者や女性、高齢者の生活支援、中小企業や個人事業者など民間金融機関から融資を受けにくい層へ積極的な支援融資をおこなっていいるのが特徴です。
日本公庫は利益目的の融資はおこなっていないため、基本的に「不動産投資」目的の融資はおこなっていません。その代わり、融資目的が「不動産賃貸事業」であると認められれば、個人・法人関係なく融資の対象になります。
日本政策金融公庫について詳しくはこちら!>>日本政策金融公庫で不動産投資の融資を受ける方法
ほかの金融機関に比べて金利が低い
日本公庫は営利目的の機関ではないため、低金利で融資を受けられます。
金利は金融機関によっても異なりますが、不動産投資ローン金利はメガバンクで1%台、そのほかの金融機関では2%台~~5%程度かかることが多いです。
対して日本政策金融公庫では1%~3%程度と低金利であり、利息による返済額が少なくて済みます。
また日本公庫では、融資期間内すべて固定金利なため金利上昇リスクの心配がありません。
加えて民間金融機関のようにローンの繰り上げ返済をおこなう際の手数料が、日本公庫では何回おこなっても無料となります。
また、若者や女性、高齢者は、融資額上限の引き上げなどの優遇措置があります。そのため低属性の人や新法人など、民間の金融機関では融資を断られたケースでも事業性さえされ認められれば融資を受けることも可能です。
融資された運転資金について注意事項
運転資金の融資が下りた場合は、申請した目的の通りに利用する必要があります。運転資金として融資を受けたのに収益物件の購入費用に充てたり、プライベートな支出に利用したりしてはいけません。
後日、運転資金の使い道などを確認されるケースもあり、申請とは違う目的で使用されていた場合は「資金使途違反」としてペナルティを受ける可能性もあるため注意しましょう。
資金使途違反が明らかになると、借入金の一括返済を求められたり、その金融機関から融資を受けられなくなったりすることがあります。
ただし借りてきた運転資金をプールしておき、もともとの預金を物件購入の頭金に充てることは可能です。
まとめ
運転資金は、基本的に製造業や販売業などで、売掛金や在庫などが現金として戻ってくるまでの期間と買掛金などが現金で出ていくまでの期間の差(収支ズレ)を埋めるために必要とされます。
そのため収支ズレのない、家賃という「現金」が収入となる不動産賃貸業には運転資金は必要ないとみなされており、融資を受けるのがむずかしいといわれています。
しかし不動産投資で運転資金として融資を受けることは可能です。その際は、「借入れたお金をなにに使うのか」「借入れたお金を投資することで見込まれる効果や収益」を明確にした事業計画書の提出が必須です。
またこれまでの不動産投資や借入・返済の実績も審査され、そのうえで運転資金の融資の判断がおこなわれるため、運転資金の融資を受けるためには、日頃から健全な不動産投資をおこなうことが重要になるでしょう。