副業で会社経営は可能?サラリーマンが起業する際の手順や注意点も
政府が2016年に提唱した「働き方改革」によって、サラリーマンの副業を原則自由にする企業が増加しました。それとともに副業をはじめるサラリーマンも徐々に増えているようです。
副業の種類はさまざまですが、なかには個人事業主として副業で得られる収入が増えたことで会社設立を検討する人もいるのではないでしょうか。
しかし、会社員をしながら会社経営ができるのか、失敗しないだろうかといった不安からなかなか1歩が踏み出せない人も少なくないでしょう。
そこで今回は、サラリーマンが副業で会社経営をする際のメリット・デメリットや起業するタイミングから、法人化するにあたって注意すべきポイントなど、会社設立と経営に役立つ知識を解説します。
副業サラリーマンが会社設立をすべきタイミングは?
会社員が起業する理由はさまざまな理由がありますが、納税額の軽減を目的に会社設立を検討するケースが多くみられます。
税負担の軽減のために法人化をするのであれば、「個人の所得税率が法人税率を上回ったタイミング」がおすすめです。
まず下記の所得税の税率表と法人税の税率表を比較してみましょう。
【所得税の税率[令和4年4月1日現在法令等]】
引用:国税庁『No.2260 所得税の税率』
【法人税の税率[令和4年4月1日現在法令等]】
引用:国税庁『No.5759 法人税の税率』
それぞれの税率表からわかるように、個人に課せられる所得税の税率は累進課税になっていて、税率は所得に応じて最小で5%、最大で45%もの税率が課せられます。
一方で法人税の税率は最大で23.20%であり、所得税の最大税率より低いです。
したがって、課せられる所得税率が23.20%を超えたときが法人化に適したタイミングのひとつと考えられます。
所得税の税率表をみると、課税所得が900万円以上になる税率が33%となり、法人税の最大税率である23.20%を超えることがわかります。よって、会社を設立する場合は課税所得が900万円以上になったタイミングを目安にするとよいでしょう。
副業サラリーマンが会社経営をおこなうメリットとデメリット
会社員が副業で会社を経営することで得られるメリットは魅力的ですが、一方でデメリットもあります。そのため、起業するにあたっては、メリットだけでなくデメリットについてもしっかり理解したうえで検討しましょう。
ここでは、副業で会社を経営するメリットとデメリットを解説していきます。
メリット1:所得税・住民税の節税効果が高まる
前述したように一定以上の所得になると個人に課される所得税率よりも法人税の最高税率のほうが低くなるため節税効果が期待できます。
また会社を設立することで、個人事業主に比べて経費計上できる支出の種類が増えますし、経営者が受け取る役員報酬は「給与所得控除」が適用されます。
さらに赤字の繰越期間が青色申告の個人事業主は3年だったのに対して、法人は10年です。利益が出たときに相殺できる期間が長いのも法人化のメリットです。
このように法人化することで、個人事業主では得られなかった税制面の優遇措置を享受できるため、所得税・住民税の負担軽減につながります。
メリット3:信用力が高まる
法人化することで個人事業主よりも社会的信用力が高くなり、資金調達を目的とした金融機関からの融資などを受けやすくなります。
デメリット1:設立費用やランニングコストがかかる
法人化するにあたって費用がかかります。株式会社を設立するには約24万円、合同会社の設立であれば約6万円が必要です。
また会社設立後は以下のようにランニングコストがかかります。
・税金
・専門家(税理士や弁護士など)への報酬
・社会保険料
・その他の維持費(事務所の賃借料や光熱費、社員への給与、社員の福利厚生費など)
デメリット2:社会保険に加入する必要がある
会社を設立して給与や役員報酬を支払った場合、自分ひとりだけの会社であっても、役員報酬を受け取る場合は社会保険に加入しなくてはなりません。
社会保険料は、会社と本人が半分ずつ負担するため、従業員数が増えたり、支払う給料が高くなったりすると、会社が負担する社会保険料の金額が高くなります。
このように法人として事業を運営するための経費や維持費などが発生することを覚えておきましょう。
社会保険の二重加入について
サラリーマンが副業で会社を設立した場合、勤め先でも社会保険に加入しているため、自分の会社とあわせて二か所で社会保険に加入しているということになります。
この場合、「健康保険・厚生年金保険被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を所轄の年金事務所に提出し、勤務先の会社と自身が設立した会社のどちらの保険証を使うか決めましょう。
このようにサラリーマンが会社を設立した場合は、社会保険の手続きに手間がかかることを覚えておきましょう。
デメリット3:決算処理が複雑になる
個人事業主の決算処理(確定申告)にくらべると、法人の決算処理は会社法にしたがっておこなうため、非常に複雑です。そのため税理士に依頼するのが一般的ですが、その際は税理士費用がかかってしまいます。
副業サラリーマンが会社設立をおこなう7つの手順
ここでは副業で会社を設立する際の手続きの流れを紹介します。
はじめて会社の設立をおこなう場合、作成がむずかしい書類などもあります。会社設立日を決めている場合は、会社設立日から逆算してスケジュールを組むことをおすすめします。
なお株式会社や合同会社など法人形態によって手続き内容が若干違います。実際に会社を設立する際は、法人化の手続き内容をしっかり確認しましょう。
STEP1:会社の基本事項を決定する
まずは株式会社にするか合同会社にするか、あるいはほかの法人形態にするか決定します。
法人形態を決めたら、会社名など、以下の基本事項を決めましょう。
・会社名(商号)
会社法や不正競争防止法に注意して決定しましょう。なお会社名には「株式会社」や「合同会社」をつける必要があります。
・本社所在地
賃貸した事務所のほか、自宅の住所でも問題ありません。
・会社の目的と事業内容
どのような事業活動をおこなうことを目的としているかを明確にします。
・株主や役員構成と報酬額
株式会社設立時には、役員数や株主構成を決める必要があります。役員報酬は経費として計上されないため、負担や税制面を考慮して検討しましょう。
・資本金額
1円から可能です。運営に必要な初期コストなどを考えると数十万円から数百万円程度が一般的です。
・決算日
決算日は自由に決めることができますが、業務に差支えないよう、繁忙期などは避けたほうがよいでしょう。
STEP2:実印を作成する
実印を、作成する印鑑は、会社の「実印(代表者印)」「銀行印」「角印」の3種類に加え、ゴム印も作っておきましょう。
登記時に必要となるので使用するときまで大事に手元に置いておきましょう。
STEP3:定款(ていかん)を作成する
定款とは、企業の根本原則が記載された書類です。書式に決まりはありませんが、法律上かならず記載する必要のある項目などが決められており、不備があると認証してもらえないため注意が必要です。(認証が必要なのは株式会社のみです)
状況に応じて、司法書士に作成を依頼するとよいでしょう。
STEP4:資本金を払い込む
この時点では会社の口座がまだないため、発起人や代表者の個人口座に資本金を払い込みます。
登記申請時に振込証明書が必要になるため、「通帳の表紙と1ページ目」と「資本金の振込内容が記載されたページ」をコピーして保管しておきましょう。
なお振込んだ資本金は、会社設立後に開設した会社の口座に移します。
STEP5:登記申請をおこなう
法務局で登記申請をおこないます。
登記申請日は会社設立日になります。そのため、特定の日を会社設立日にしたい場合は登記申請日に間に合うよう、余裕をもって準備しましょう。
なお登記申請に必要書類については、設立する法人形態によって異なります。一般的な株式会社の登記に必要な書類は以下のとおりです。
【会社設立に必要な書類(株式会社の場合)】
・登記申請書
・登録免許税納付用台紙
・定款
・発起人の決定書
・設立時取締役の就任承諾書
・設立時代表取締役の就任承諾書
・設立時取締役の印鑑証明書
・資本金の払込みがあったことを証する書面
・印鑑届出書
・「登記すべき事項」を記載した書面又は保存したCD-R
STEP6:登記申請後に法務局で確認・手続きをする
登記が完了したら、法務局で次の確認・手続きをおこないます。
・印鑑カードの取得
・印鑑証明書の交付
・登記事項証明書の交付
印鑑カードは印鑑証明書の発行に必要なので、かならず手続きをおこないましょう。
STEP7:各所へ届け出をする
法人化が完了したあとも、会社の銀行口座の開設や保険の加入手続きなど、事務処理をおこなう必要があります。もれなく手続きを終えましょう。
【法人化した後に必要な手続き】
・会社の銀行口座の開設
・個人事業の廃業手続き
・登記事項証明書の取得
・印鑑証明書の取得する
・各機関へ法人設立届出書の提出
・労働保険への加入手続き
・社会保険への加入手続き
会社員が副業で会社経営をする際の注意点
サラリーマンとして勤務しながら会社を設立するにあたって、注意すべき点がいくつかあります。ケースによっては大きなトラブルにつながる可能性もあるため、十分注意しましょう。
会社の服務規定を確認しておく
法律上は副業で会社を設立すること自体に問題ありません。
しかし、法律上の問題はなくても、勤務先の服務規定で副業が禁止されている場合には注意が必要です。
副業禁止にもかかわらず、副業の会社設立がバレてしまうと、ペナルティを受ける可能性もあるため注意が必要です。最悪の場合は損害賠償問題にまで発展する恐れがあります。
そうならないためにも、副業で起業を検討する際は、事前に勤務先に確認し、許可をとることをおすすめします。
不動産投資は副業にならない?詳しくはこちら!>>家賃収入は副業にあたらない?会社員の不動産投資で注意するポイント
公務員の副業は原則禁止
国家公務員法や地方公務員法などによって、公務員の副業は原則として禁止されています。
そのため、公務員の副業が発覚した場合は違法となり、減給や免職処分を受ける可能性があるため、特に注意が必要です。
公務員の副業について詳しくはこちら!>>公務員が不動産投資で副収入を得る方法!メリットや注意点を解説
手持ちの資金を考慮する
個人事業主から法人化することでさまざまなメリットを得られますが、法人化しないほうがよいケースもあります。
たとえば資金に余裕がない場合です。
会社を設立するためには費用がかかります。また個人事業主に比べて、法人は従業員の給与や社会保険料を負担しなければならず、ランニングコストがかかります。
また万が一、事業がうまくいかず廃業する場合にも、会社設立と同じくらいの費用が必要です。
いくら税金の負担が減るといっても、資金不足の状態で無理に法人化してしまうと事業で赤字が出た場合に補填できないなどデメリットにしかなりません。
起業するかどうかは、手持ちの資金も考慮したうえで検討しましょう。
身体的・精神的な負担がかかる
本業のサラリーマンと会社経営を両立できるかどうかは重要なポイントです。
サラリーマンとして週5~6日フルタイムで勤務している場合、それ以外の時間、おもに本業の終業後や休日などを設立した会社の経営にあてることになるでしょう。
しかし本業で疲れた夜間や休日も働いている状態ですから、疲れても十分休むことができず、身体への負荷は溜まる一方です。
加えて、法人化してもすぐに経営がうまくいくとはかぎらないため、精神的にも疲弊することも考えられます。最悪に場合は会社を継続できなくなるおそれも十分考えられます。
どれだけ上手に身体と精神を癒せるかどうかも、サラリーマンが起業するあたって考慮しておくべき重要なポイントになるでしょう。
まとめ
サラリーマンが副業で起業し、会社経営をおこなうことで多くのメリットが得られますが、だれにでも向くわけではありません。
法人化するにあたって設立費用やランニングコストなどの費用負担がかかります。また本業と会社経営を両立することで身体や精神にかかる負担も懸念されるため、これから法人化を検討する場合は、慎重に判断する必要があるでしょう。
なお法人化するタイミングを見誤ると、法人化のメリットが十分に得られない場合もあります。サラリーマンが副業で会社経営をする際は、個人事業主の場合と比較し、法人化することでどのくらい得になるのか、しっかりシミュレーションすることをおすすめします。