家賃滞納者を強制退去させるための流れや費用、未然に防ぐ方法を解説
家賃滞納は不動産投資をおこなううえで、単なる空室よりも厄介なリスクのひとつです。
とくに滞納が長期に及ぶと家賃が入らないばかりか、新しい入居者から家賃を得る機会まで失ってしまうため、大家さんからするとできるだけ早く退去してもらう必要があります。
そこで今回は、家賃滞納者を強制退去させる方法について詳しく解説します。
強制退去までの流れや費用のほか、家賃滞納を未然に防ぐ方法も紹介します。
すでに不動産投資をはじめている人も、これからはじめる人も、家賃滞納リスク対策のためにぜひ参考にしてください。
不動産投資の家賃滞納リスクとは?
不動産投資のリスクのひとつに家賃滞納リスクがあります。
家賃滞納は家賃が入ってこないだけでなく、滞納されたまま住みつづけられると新しい入居者を募集することもできず、家賃収入を得るための「機会の損失」につながります。
さらに滞納された家賃は会計上では未収金あつかいとなり、実際には入金されていないにもかかわらず税金の支払い対象となるため、オーナー様(貸主)にとってより負担が大きくなってしまうのです。
そのため家賃滞納が発生した場合は、できるだけ早く対処する必要があります。
オーナー様にしてみれば、家賃を滞納するような賃借人(入居者)はすぐにも退去してほしいと考えても不思議ではありません。
しかし、賃貸借契約における借地借家法によって、賃借人の権利が強く、家賃を滞納したからといって簡単に借家人を強制的に退去させることはできません。
まず督促や交渉などをおこなったのち、どうしても家賃支払いに応じてもらえない場合になって、ようやく「強制退去」が可能になるのです。
次の項では、家賃滞納者を強制退去させるための条件について解説します。
家賃滞納者を強制退去させる条件とは
前述のように家賃滞納による強制退去は簡単にはおこなえません。
強制退去は、賃借人と交渉したうえで、どうしても家賃を支払ってもらえない場合の最終手段となります。
家賃滞納による強制退去を可能にするためには、以下のような条件を満たす必要があります。
家賃滞納が3ヶ月以上つづいている場合
強制退去をおこなうには、賃貸借契約の解除に至る「信頼関係の破壊」が必要とされていますが、明確に「〇ヶ月以上」とは謳われていません。
これまでの強制退去を求める裁判の判例では、3ヶ月以上家賃を滞納した場合に「信頼関係の破壊」であると認められるケースが多いため、「最低でも3ヶ月以上の家賃滞納」が強制退去させられる目安とされています。
滞納した家賃を支払う意思がないとみなされた場合
家賃の督促を無視する、連絡が取れないなど、賃借人が滞納している家賃を支払う意思がないと認めてもらう必要があります。
そのためにも、督促状を内容証明郵便など記録の残る形で送付する、電話や訪問して督促をおこなった場合は日時をメモしておくなど、証拠となる記録を残しておくとよいでしょう。
行動によってはオーナーが罪に問われる場合もあるため要注意
家賃滞納などを理由に賃借人に強制退去してほしい場合であっても、オーナー様が以下のような行動をとると、逆に罪に問われてしまう可能性があるため注意が必要です。
・住居侵入罪:賃借人に無断で室内に立ち入った場合など
・不退去罪:賃借人に室内から退出を要求されているにもかかわらず居座った場合など
・脅迫罪、暴行罪:大声をあげる、脅すようなことを言う、暴力をふるった場合など
・窃盗罪、器物損壊罪:無断で賃借人の荷物などを持ち出したり壊したりした場合など
・不動産侵奪罪:賃借人に無断で部屋の鍵を交換した場合など
家賃滞納から強制退去までの流れについて
ここでは、家賃滞納がはじまってから強制退去までの流れについて紹介します。
ステップ1:交渉・督促をおこなう【家賃滞納の翌日~1ヶ月程度】
家賃滞納が起こった場合はまず、家賃の督促をおこないます。
手紙や電話、部屋を直接訪ねるなどして家賃の支払いを求めましょう。
その場合は督促や交渉をおこなった証拠を残すためにも、内容証明郵便の利用や電話や訪問した日時を記録しておくとよいでしょう。
交渉の結果次第では家賃滞納を円満に解決できる可能性もあります。
賃借人の経済状況次第で分割払いに応じるなど、便宜を図ることで家賃を回収できる場合もあるでしょう。
ただし、賃借人と連絡がつかない、「〇日までに支払う」という約束が履行されなかった場合は、再度交渉や督促をおこないます。
交渉や督促を1ヶ月間に2~3回おこなっても家賃支払いの目処が立たない場合は、書面にて「期日までに支払いがない場合、予告なく賃貸契約を解除する」といった旨を記載した督促状を送付します。
その際は、かならずかならず内容証明郵便で送りましょう。
ステップ2:連帯保証人への連絡【1~2ヶ月後】
ステップ1で、賃借人と連絡がつかない、交渉したにも関わらず家賃の支払がされない場合は賃貸借契約書に記載された連帯保証人に連絡して家賃の支払い請求をおこないましょう。
連帯保証人からも未払い家賃が支払われない場合は、次のステップにすすみます。
ステップ3:契約解除の送付・明け渡し請求の申し立て【3~6ヶ月後】
数度の督促や交渉によっても滞納分の家賃が支払われない場合は、ステップ1で送付した督促状に記載したとおり賃貸契約解除をおこないます。
あらためて契約解除の通知を内容証明郵便で送付しましょう。
契約解除にともない、まずは賃借人に任意の立ち退きを打診しましょう。
交渉の結果、賃借人が自主的に立ち退いてくれるのであれば、オーナー様・賃借人それぞれの時間と裁判費用が節約できます。
その際、早急に立ち退いてもらえるのであれば、未払い家賃の一部を免除したり、支払いを猶予したり、なんらかの便宜を約束すると立ち退き交渉材料になる場合があるので検討するとよいでしょう。
契約解除後も家賃が支払われず、立ち退きにも応じない場合は「明け渡し請求」を裁判所に申し立て、裁判をおこないます。
なお、申立ての際は訴状のほか、以下の書類が必要です。
・賃貸借契約書
・賃料の支払い経過をまとめた表
・賃料の請求書および配達証明書
・賃貸契約解除通知書および配達証明書
・不動産登記謄本
明け渡し請求訴訟では、強制執行の際の明け渡しだけでなく、滞納家賃などの支払いも合わせておこなわれます。
なお、賃借人や連帯保証人が出頭してきた場合、話し合いで和解できる可能性もあり、その場合は判決と同様の強制力を持つ「和解同意書」を作成しましょう。
ただし、被告が和解内容を守らなかった場合は、そのまま強制執行となります。
また、賃借人と連帯保証人がどちらも出頭せず、答弁書の提出もなかった場合は、オーナー様が訴えた内容=判決とされます。
ステップ4:裁判所による立ち退きの催告・強制執行の申し立て【3~6ヶ月後以降】
ステップ3の強制退去の申し立てを裁判所が受理すると、裁判所から賃借人宛に立ち退きを要請する催告状が送られます。
賃借人は催告状で指定された期日までに建物(部屋)を明け渡して退去しなければなりませんが、それでも退去しない場合は強制執行(強制退去)がおこなわれます。
ステップ5:明け渡しの強制執行
明け渡しの強制執行(強制退去)は、裁判所の執行官が立会いのもと、執行官がともなった業者によって室内にある家具・家電などを搬出して室内を空にします。
その後、部屋の鍵を交換し、強制執行は完了です。
なお、運び出された荷物は一定期間保管されます。
そのあいだに賃借人が荷物を引き取らない場合は廃棄されますが、オーナー様が売却して滞納家賃に充てることも可能です。
家賃滞納による強制退去にかかる費用目安
家賃滞納から賃借人の強制退去までには、さまざまな費用が発生します。
とくに弁護士に依頼するかどうかによって費用額は大きく異なります。
弁護士に依頼することで費用額は増えますが、交渉や裁判をすべて任せることができるため、早期解決や成功する確率を上げるためにも依頼する価値は十分あると考えられます。
また「弁護士が担当する」ことで賃借人にプレッシャーを与えることができるのも大きなメリットです。
家賃滞納による強制退去にかかる費用の目安は以下のようなものがあります。
【督促・交渉にかかる費用】
・内容証明の作成や交渉費用:1,300円~1,500円程度/1通
・督促や交渉時にかかった電話代や交通費など
【裁判にかかる費用】
・訴状に貼付する印紙代:約3,000円/ワンルーム(滞納家賃額によって異なる)
・予納郵便切手代:6,000円
・登記簿謄本等取得手数料:約1,000円/1通
・占有移転禁止の仮処分:申立費用2,000円、担保金30万円(裁判後返却)
【強制退去時にかかる費用】
・予納金:65,000円程度
・鍵の交換費用:約2万円/1回
・荷物移動にかかる費用:約10万円/ワンルーム(間取りや面積、残置物量によって異なる)
・廃棄処分費用:約2~4万円
*上記以外に残置物の一時保管費用がかかる場合あり
【弁護士費用】
・相談料:1時間5,000円程度(無料もあり)
・着手金:賃料によって異なる(賃料20万円以下の場合は10~40万円程度)
・報酬金:回収できた金額の約10%程度
上記の金額はあくまで目安ですが、費用を合計すると約100万円の費用が必要になります。(担保金含む、のちに返却)
なお、強制退去するまでにかかった費用(弁護士費用を除く)は、オーナー様が負担しますが、その後賃借人に請求することも可能です。
ただし賃借人が自己破産してしまった場合は、裁判にかかる費用だけでなく滞納分家賃の回収も不可能になります。
家賃滞納や強制退去を防ぐためには
前述のように家賃滞納による強制退去には高額な費用がかかるだけでなく、時間や労力も必要です。
そのため、家賃滞納リスクを防ぐ対策をあらかじめ立てておく必要があります。
ここでは、家賃滞納リスクを防ぐ方法を紹介します。
家賃保証会社の利用
少し前までは、家賃滞納への備えとして連帯保証人を立てることが一般的でしたが、最近は連帯保証人がいたとしても、入居時に「家賃保証会社」との契約を義務づけるケースが増えています。
家賃保証会社は入居中の賃借人が家賃を滞納した場合、賃借人に代わって保証会社がオーナー様へ家賃を支払うサービスをおこないます。
また賃借人への督促や、滞納者を立ち退きさせるための訴訟費用も保証会社が負担してくれるため、オーナー様や管理会社は手間がかからずに済むのがメリットになります。
なお、家賃保証会社を利用する際は不動産会社が代理店となり、入居者本人が申し込むことになります。
契約には、入居申込みと同時に保証会社に入居者の審査をしてもらい、問題がなければ契約となります。
その際、入居者は敷金や礼金などの初期費用と一緒に、保証委託料として月額賃料総額の0.5~1ヵ月程度を支払うのが一般的です。
また契約更新時にも入居者から保証会社への支払いが発生します。
オーナー様にとって家賃滞納リスクが軽減されるため大きなメリットのある家賃保証会社ですが、賃借人にとっては費用の負担や手続きがデメリットになります。
そのため、家賃保証会社との契約の重要性を理解してもらえるよう、賃貸借契約時には丁寧な説明を心がけましょう。
入居審査の基準を設けておく
家賃滞納リスクを減らすためには入居希望者の選定も大事です。
家賃を支払える経済力(収入)があるか、連帯保証人は立てられるか、内見時の会話や態度などから人となりを判断するなど、しっかりと入居審査をおこないましょう。
入居審査とあわせて、家賃保証会社の利用を義務づけることで、家賃滞納リスクを最小限におさえることが可能です。
なお、入居審査時には以下のような点をチェックしましょう。
・居住期間や引越し回数など
極端に居住期間が短い、引越し回数が多いなど不自然な点がある場合は、なんらかのトラブル要因だったり、短期解約の常習犯だったりする恐れがあります。
・頻繁に転職をしている
職場の勤務期間が短い場合、収入が不安定になりがちなため、家賃を滞納する恐れがあります。
・家賃に比べて収入が低い
家賃額に対して収入が低い入居希望者の場合、家賃を支払うのが困難になる場合もあるため注意が必要です。
空室を埋めたいばかりに入居審査をおろそかにしたあげく、家賃を滞納された場合の負担を考えれば、事前に家賃滞納の芽を摘んでしまうことでリスクの軽減につながります。
もうけた入居審査基準から外れるようであれば入居を見合わせましょう。
仲介会社が入居審査をおこなう場合も、審査基準をしっかりと伝えておくとよいでしょう。
家賃滞納・強制退去のQ&A
ここでは家賃滞納や強制退去の疑問点について解説します。
弁護士費用をおさえるためにできることは?
一般的に弁護士費用は高額ですが、できるだけ弁護士費用をおさえるためには、以下を活用するとよいでしょう。
無料相談を利用する
「初回無料相談」を実施している弁護士事務所もたくさんあるので、そういった弁護士事務所を利用することで費用をおさえることができます。
なお、無料相談は利用時間が決められている場合も多いため、あらかじめ知りたい内容をまとめておくなどして、時間内にできるだけ質問できるように前もって準備をしておきましょう。
分割払いが可能か相談する
数十万円かかる弁護士費用を一括で支払うのがむずかしい場合は、分割払いができないか交渉してみるとよいでしょう。
支払額が減るわけではありませんが、1度に高額の報酬を支払わずに済むので費用負担を軽減できます。
法テラスの制度を利用する
弁護士費用の捻出がむずかしい人におすすめなのが、法テラスの「民事法律扶助制度」の利用です。
民事法律扶助制度とは、低所得者に向けて設けられた制度で、無料の法律相談や法テラスから弁護士費用の立て替えをしてもらえるサービスです。
立て替えてもらった費用は、事件(依頼)完了後に法テラスへ月々5,000円(もしくは1万円)ずつ返済していきます。
なお、民事法律扶助制度は低所得者を対象としているため、所得額によっては利用できない場合があります。
家賃滞納者が行方不明のときは?
家賃を滞納した賃借人が行方不明の場合は、通常と同じ流れで督促や交渉をおこない、裁判所に「公示による意思表示」を申し立てましょう。
公示による意思表示とは、相手の所在地がわからない場合や、相手がだれなのかわからない場合に「確かに相手に意思を示した」と認めてもらうためにおこなう手続きです。
参考:裁判所『意思表示の公示送達の申立てをされる方へ』
公示による意思表示が相手に届いたとみなされたら、その後は前述の強制退去の流れと同様に進めることができます。
まとめ
家賃滞納者を強制退去させるのは簡単ではありませんが、一定の条件を満たしたうえで正しい手続きをおこなうことで強制退去は可能です。
しかし強制退去させるには時間とお金、そして労力が必要なため、できるだけ「家賃滞納をさせない」ようにするのが一番のリスク対策につながります。
家賃滞納を未然に防ぐためには、入居審査を厳しくしたうえで、家賃保証会社との契約を入居条件に加えるなどの対策が効果的です。
万一、家賃滞納が起きてしまった場合は、滞納額が膨らまないうちに弁護士に相談し、早期解決を目指すことをおすすめします。