不動産投資のフルローンはリスクを理解・把握したうえで活用しよう
不動産投資の融資方法のひとつである「フルローン」は、手元に資金を残しておくことができ、また大きなレバレッジ効果も期待できます。
その反面、通常の融資よりも借入額が大きくなるため、月々の返済額が増えたり、返済期間が長くなったりといったデメリットも。
失敗せずにフルローンを活用するためには、デメリットやリスクをしっかりと理解したうえで、いくつかのポイントに注意する必要があります。
今回は、不動産投資の「フルローン」について、メリットとデメリット・リスク、運用する際の注意点を解説します。
また、フルローンを受けやすいケースについてまとめたので、ぜひ参考にしてください。
フルローンとは?
一棟アパートや区分マンションなどの不動産物件を購入する際、多くの場合は金融機関の不動産投資ローンを利用します。
その場合、物件価格のうちいくらかを「頭金」として支払い、残りの額についてローンを組むのが一般的です。
「フルローン」とは、頭金なしで金融機関から物件価格の全額を融資してもらうことを指します。
ただし、物件購入にかかる諸費用(仲介手数料や税金など)は融資金額には含まれないため、
自己資金から払う必要があるのです。
フルローンで不動産投資をおこなうメリット
不動産投資物件の購入にフルローンを利用した場合、以下のようなメリットがあります。
レバレッジ効果を最大限活用できる
フルローンを利用することで、レバレッジ効果を最大限得ることができます。
レバレッジとは「テコの原理」を指しますが、不動産投資においては「小さい資金で大きな資産を得る」ことを指します。
たとえば、価格が1,000万円、年間家賃収入が80万円の不動産物件を全額自己資金で購入した場合の利回りは8%です。
しかし、自己資金1,000万円を頭金にして2,500万円を借入れ、3,500万円の不動産物件を購入すれば同じ利回り8%であっても、この場合の年間家賃収入は280万円になります。
ローン借入をした場合は返済利息が発生しますが、仮に利息を3%として年間利息84,000円を支払ったとしてしても、全額自己資金で物件を購入した場合に比べて、約190万円も多く家賃収入を得ることができるのです。
このように投資した自己資金額が同じでも、金融機関から借入れをおこなった場合のほうがより多くの利益を得ることができる、これが不動産投資におけるレバレッジ効果です。
よって、頭金を入れないフルローンは、よりレバレッジを効かせることができるのです。
自己資金を残しておける
フルローンを利用することで、自己資金を手元に残しておくことが可能になります。
手元に現金があれば、不動産投資中の突発的な修繕費用や病気やケガといったプライベートにかかる費用などに対応できるでしょう。
団体信用生命保険(団信)を最大限活用できる
「団体信用生命保険(団信)」とは、ローン契約者が亡くなったり、高度障害になったりした場合にローン残債が補填される保険です。
ローン契約者に万一があっても残された家族(または本人)に残債ゼロの物件が残されるため、そのまま不動産投資を継続したり、物件を売却して生命保険の代わりにしたりできるメリットがあります。
団信はフルローンでなくても加入できますが、借入額の大きいフルローンは、補填される額も大きくなるため、団信を最大限活用できるというメリットが生まれるのです。
フルローンで不動産投資をおこなうデメリット・リスク
メリットもあるフルローンですが、利用することで受けるデメリットやリスクも理解しておく必要があります。
フルローンのおもなデメリットとリスクは以下のようになります。
月々の返済額の負担が大きい
フルローンのデメリットは、頭金を入れていいないだけに借入額が大きく、そのため月々のローン返済額が高くなりがちです。
また返済期間も長期化する傾向にあることがあげられます。
不動産投資の場合、毎月の家賃収入のなかからローンの返済額を支払うのが一般的ですが、返済額によっては家賃収入だけでは返済ができない恐れがあります。
突発的な空室や設備の故障などでクリーニング費用や修繕費用が発生した場合、キャッシュフローが悪化し、手持ち資金がなければ賃貸経営自体が破綻する危険性も考えられるでしょう。
金利上昇リスクがある
2021年11月時点では、日本銀行の政策により低金利が続いていますが、今後の政策や経済状況によっては金利が引き上げられる可能性があります。
フルローンを利用した場合、毎月の返済額が大きく、また返済期間が長期になりやすいため、金利が上昇すると支払う利息が増え、総返済額も増大するリスクがあるのです。
金融機関の融資審査が厳しい
不動産投資ローンで融資を受けるには金融機関の融資審査を通過する必要がありますが、2018年(平成30年)に起きた金融機関による不正融資問題以降、不動産投資物件への融資審査は厳しくなりました。
融資基準を満たさないケースでも融資基準に見合うよう、書類を改ざん・偽装して融資を承認させるなどの金融機関の不正が発覚したことで、これを重く受け止めた金融庁は各金融機関への監視を強化。
そのため、銀行は金融庁の指導に乗っ取った厳しい融資審査を実行するようになったのです。
融資審査では、本人の属性(職業や収入、借入金の有無など)や融資を受ける物件の資産価値が審査されますが、審査結果によっては希望した融資額を受けられない場合もあります。
特に頭金を入れた場合に比べて融資額が大きくなるフルローンは、「きちんと返済できるかどうか」の審査が厳しくおこなわれるため、希望する融資額を減額されたり融資を断られたりする可能性も考えられるのです。
物件を売却しても残債が残る可能性がある
不動産投資で得られる利益は、毎月の家賃収入(インカムゲイン)のほかに、「売却益(キャピタルゲイン)」を得る方法があります。
しかし、フルローンを利用して購入した物件はローン返済額が多いため、売却益が出ず、逆に「売却損(キャピタルロス)」になることも考えられます。
売却しても残債が残ってしまった場合は、手元の資金で残債を完済しなくてはなりません。
万が一、残債を支払うための資金がなければ経営破綻してしまう恐れがあることを理解しておく必要があります。
追加融資がむずかしい場合がある
フルローンのローン返済中に追加融資を受ける場合、融資審査の通過がむずかしい場合があります。
これは、「フルローンを組んでいるなか、新たにローンを組んでも返済できるかどうか」や「現在の収入に対しての返済比率は妥当か」といった点を金融機関が審査した結果、「むずかしい」と判断される可能性があるためです。
金融機関にとって「借入者がきちんと返済できるかどうか」は非常に重要です。
そのため、返済状況や残債の額によっては、希望額の融資が受けられない、または融資を断られる可能性があることを理解しておきましょう。
諸費用を用意する必要がある
不動産投資物件を購入するにあたって、物件の代金以外にさまざまな諸費用が発生します。
これら諸費用は金融機関からの融資には含まれないため、自己資金として用意しなくてはなりません。
なお、目安は物件価格の7~10%程度で、おもな諸費用には以下のものがあります。
・仲介手数料(不動産仲介業者を介した場合)
・融資事務手数料、融資保証料
・収入印紙代
・各種保険料(火災保険、地震保険等)
・不動産登記費用
・固定資産税清算金
・不動産取得税
諸費用含めて融資を受けられるオーバーローン
オーバーローンとは、上記の諸費用も合わせて融資を受けられるローンを指します。
頭金も諸費用も不要なため、レバレッジ効果を最大限活用でき、また手元資金も減らないというメリットもありますが、反面、フルローン以上に借入額が大きくなるため、リスクも増大します。
そのため、月々のローン返済額やキャッシュフローはいくらかといった収支シミュレーションをより綿密におこなう必要があるでしょう。
不動産投資でフルローンを受けやすいケースとは?
上記に書いたように、不動産投資でフルローンの融資を受けるには厳しい融資審査に通過する必要がありますが、可能性はゼロではありません。
ここではフルローンを受けやすいケースについてまとめました。
個人の属性や信用度が高い場合
個人の属性とは、勤務先、勤続年数、年収、家族構成などがあげられます。
公務員だったり、勤務先が上場企業だったり、倒産リスクの少ない安定した職場で長年勤務している場合は「個人の属性が高い」と判断され、フルローンを受けられる可能性が高まります。
所有する資産についても同様です。
すでに不動産投資をおこなっている場合の家賃収入額や不動産の価値、株式や預貯金、加入している保険はもちろん、将来的に入手できる予定の退職金や企業年金などがあれば、いざというときの返済原資として評価の対象となる可能性があります。
また、過去の借入履歴や返済状況などの信用情報による信用度も審査対象です。
支払い遅延が頻繁だったり、残債が多かったりする場合は融資を受けることがむずかしくなります。
不動産投資以外のカードローンやキャッシングなどの借入金の有無も審査されるため、必要のないクレジットカードは解約したり、遅延することなく返済をおこない残債を減らしたりすることで融資審査に通過しやすくなります。
なお、信用情報は自身で開示請求をおこなうことができるので、信用度が心配な人は融資申し込み前に自身の信用情報を確認しておくとよいでしょう。
不動産投資の実績がある場合
フルローン融資を受けるためには既存の借入れがないほうがよいですが、すでに不動産投資をおこなっていて成功している場合は、その実績が融資審査にプラスに働くケースもあります。
所有する不動産投資物件のローン借り入れを同じ金融機関から受けており、きちんと返済をおこなっている場合などが該当します。
また融資担当者と信頼関係が築けている場合も、フルローンの融資審査を有利にしてくれる可能性高まるでしょう。
物件の収益性や担保性が高い場合
フルローンの融資は金融機関にとってもリスクがありますが、融資を受ける不動産物件の収益性が見込める場合や担保性が高ければ、フルローンの融資を受けられる可能性が高まります。
たとえば、中古物件であれば長年黒字経営で安定した実績がある場合や、新築であれば土地の価値が落ちにくい人気エリアの好立地物件などが収益性や担保性が高いと評価されやすくなるでしょう。
不動産会社の提携金融機関を利用した場合
不動産物件を購入する不動産会社に提携する金融機関がある場合は、利用することをおすすめします。
提携金融機関が複数ある不動産会社であれば融資審査に通りやすい金融機関を紹介してもらえたり、過去に融資実績がある不動産会社に金融機関を仲介してもらうことで交渉をスムーズに運べたりといったメリットも得られるでしょう。
不動産投資でフルローンを利用する際の注意ポイント
大きなメリットがある反面、リスクもあるフルローンを利用する場合、失敗しないためにも下記の点に注意しましょう。
収支シミュレーションは綿密におこなう
不動産投資は、株式投資やFXに比べるとリスクが少ない投資方法のひとつです。
しかし投資である以上、なんらかのリスクは存在します。
不動産投資のリスクには、空室リスク、家賃下落リスク、修繕リスク、金利上昇リスクなどがあります。
こういったリスク対策をおこなうとともに、それぞれのリスクを高めに見積もったうえで収支シミュレーションをおこなうとよいでしょう。
高めのリスクでシミュレーションをおこない、ローン完済までのあいだ安定したキャッシュフローが得られるか、手元資金は十分かなど、しっかりとした返済計画を立てたうえで物件を購入する必要があります。
返済比率に留意する
不動産投資で得た家賃収入に対して毎月発生するローン返済額の比率を「返済比率」といいます。
返済比率は、収入と返済額を比較することでローンの支払いリスクがどのくらいあるかを知る指標となり、一般的な適正値は50%以下(やや安心)が目安です。
返済比率が低ければ、それだけ手元に残るキャッシュフローが増加します。
逆に高すぎる場合は儲けがないだけではなく、手元資金や修繕積立金なども貯められず、突発的な修繕などに対応できなるくなるため賃貸経営が困難になります。
ローンの返済額は、簡単に減らすことはできません。
ましてや、フルローンの場合は毎月の返済額が高くなる傾向が強いです。
そのため、収支シミュレーションをおこなう際には、空室率も見越して返済比率を多くとも50%以下に抑えるようにしましょう。
返済比率について詳しくはこちら!>>不動産投資ローンの返済比率を下げる方法を解説!目安の比率は何%?
デッドクロスに備えて自己資金を用意しておく
不動産投資では、「不動産投資ローンの元本返済額が減価償却費を上回る」状態を「デッドクロス」と呼びます。
不動産投資ローンで借入金の元本返済分は経費として計上できませんが、毎月一定額をローン返済額として支払う必要があります。
その一方で経費として計上できていた減価償却費は経年とともに減少していくため節税効果が少なくなり、税金のかかってくる部分が大きくなります。
そのため、ある時期を境に元本返済額が減価償却費を超えてしまい、帳簿上は利益がある(黒字)なのにもかかわらず、その利益に課される所得税額が増えることで最終的な収益が赤字になってしまうのです。
借入額が大きくなりがちなフルローンは、通常の融資に比べてデッドクロスを引き起こしやすくなります。
そのためフルローンを利用する場合は、デッドクロスが発生した場合に備えて自己資金を用意しておくことが重要です。
デッドクロスについて詳しくはこちら!>>不動産投資でデッドクロスが起こる3つ原因と9つの対処方法を解説
「自己資金がないからフルローン」は危険!
頭金を入れずに融資を受けられるフルローンは、しばしば「自己資金がないからフルローンで融資を受ければよい」と考えられがちですが、その考えは非常に危険です。
前述したように、フルローンにはメリットもありますが、デメリットやリスクあるため、その対策のために手元資金をある程度残しておく必要があります。
どんなに優良物件であっても、いつかは空室になりますし、それにともなって現状回復費用は必要です。
また建物や設備は経年とともに劣化・老朽化するため、空室が増え家賃下落を招きます。
空室・家賃下落対策として、定期的なメンテナンスや修繕費用が必要となります。
月々の返済額が大きくなりがちなフルローンは、いざというとき手元に資金がなければ、こういった出費に対応できず、キャッシュフローが悪化し経営が破綻する恐れも十分考えられるのです。
手元資金があれば予期せぬ出費にも対応でき、毎月のローンをきちんと返済することができますし、それによって不動産投資の実績にもつながります。
自己資金がないからといって安易にフルローンやオーバーローンで融資を受ける危険性を今一度、理解しておくことをおすすめします。
まとめ
フルローンは、自己資金を残しておける、レバレッジを効かせた投資ができるメリットができる反面、月々の返済額が高額になったり返済期間が長期になる可能性が高くなるため、返済比率に留意したり、デッドクロスに備えて自己資金をプールしておくことが重要です。
また、不動産投資でフルローンを利用する場合は、厳しい融資審査を通過する必要があります。
フルローンで融資を受ける可能性のあるケースを参考に、ある程度の資金を用意し、しっかりと収支シミュレーションをおこなったうえで、無理のない返済計画を立てことが第一に