不動産投資における与信枠はどう決まる?融資限度額や属性の上げ方
不動産投資をおこなううえで、金融機関からの融資を受けることが一般的ですが、金融機関によって融資限度額は決まっています。また個人の場合は、融資審査で個人属性と物件価値によって「与信枠」が設定されます。
ではサラリーマンは投資用不動産のための借入れをいくらまでできるのでしょうか。
今回は記事では、融資のポイントとなる「与信枠」について詳しく解説します。また、属性が低くて希望する融資を受けられない場合にできる「属性を上げるヒント」も紹介します。
不動産投資における与信枠とは?
不動産投資における与信枠とは、「この人はどれぐらいの返済能力があるのか?」を判断し、「この人にはこれだけのお金を貸しても大丈夫だろう」といった貸付限度額を設定することを言います。
金融機関が融資をおこなう際につける「利息」は、金融機関の大事な収入源のひとつです。
たくさんお金を貸せば、利息でたくさん儲かる……というわけにはいきません。なぜなら、貸したお金が返ってこない「貸し倒れリスク」があるからです。
そのため金融機関は、貸したお金がきちんと返ってくる人にしか融資をしません。そのために与信枠を決め、ある程度の社会的信用がなければお金を借りることはできないようになっているのです。
不動産投資における融資額はどう決まる?
与信は、借りる人の個人属性の評価によって決定されます。属性とは「融資を申し込む人の勤務先や年収などの社会的、経済的背景」のことを言います。
不動産投資で収益物件を購入するときの融資限度額は、個人属性と与信、そして購入する不動産の価値の3点を総合的に評価された結果で決まるのです。
ここでは個人属性と購入不動産の価値それぞれについて、評価されるポイントを解説します。
なお、各金融機関は、融資審査の際にどのような基準で評価しているかといった具体的な審査内容は公表していません。そのため金融機関が独自で基準を定めているケースもあります。あくまで一般的な融資審査基準の目安としてとらえてください。
融資審査について詳しくはこちら!>>不動産投資の融資の可否はどう決まる?審査に通りやすいのはこんな人
個人属性
個人属性は、年収や勤務先・勤続年数、家族構成、所有する金融資産額、借入金の有無・額などを含む複数の項目から成り立ちます。ここでは与信枠の判断基準として重要な、年収と勤務先・勤続年数について解説します。
年収
不動産投資は、資産家や医師などの高所得者だけでなく、サラリーマンや自営業の方、最近では学生で不動産投資をはじめるケースも増えています。ようするに不動産投資はだれにでもおこなえるのです。
ただし、金融機関から融資を受けるためには融資審査に通る必要があり、融資を利用できる要件のひとつとして一定額以上の年収が求められるケースがあります。
金融機関によって基準となる年収は異なりますが、サラリーマン不動産投資を行うための年収は、一般的には700万円が目安とひとつの目安と言われています。
下記は、年収別で金融機関が融資をおこなう確率を示したものです。
- 年収1,000万円以上:80%以上の金融機関が融資可
- 年収700万円以上 :50%以上の金融機関が融資可
- 年収500万円 :30%以上の金融機関が融資可
やはり高年収のほうが融資を受けられる確率が高くなりますが、年収500万円の場合でも、およそ1/3の金融機関から融資を受けられる可能性があることがわかります。
年収が高ければ与信枠も大きくなるので、融資額の増額や低金利など好条件の融資も期待できるでしょう。
なお、年収に関係なく融資をおこなう金融機関もあります。「どうしても年収が足りない」という場合はそういった金融機関に融資の相談をしてみるとよいでしょう。
勤務先・勤続年数
金融機関にとってもっとも重要なのは、「貸したお金の返済が滞りなくおこなわれるか」です。そのため年収と並んで勤務先や勤続年数は大事な判断基準になります。
まず勤務先については、業種や資本金の額、経営状態が安定しているかなど、倒産リスクについて評価されます。一般的に公務員や医師、上場会社に勤務している正社員は属性が高く評価されるので融資に有利にはたらきます。
反対に、勤務先が固定されない派遣社員や業績の影響を直接受けてしまう個人商店主などは、金融機関からの評価が低くなりやすいです。
勤続年数は、長ければ長いほど評価が高くなります。
一方、転職の回数が多い人や転職して間もない人は、年収が高くても収入が安定していないとみなされ、金融機関からの評価が低くなる可能性があります。
基本的に転職や退職をすると今まで積み上げてきた勤続年数がリセットされ、一からスタートになりますが、同業転職であれば、会社は変わったとしても勤続年数は継続してカウントしてくれる金融機関もあるので確認してみるとよいでしょう。
なお、一般的に勤続年数3年~5年以上あれば、安定していると評価してもらえる可能性が高いです。
もし転職や独立・脱サラ後に不動産投資を検討している場合は、離職する前に投資用物件を保有しておくとよいでしょう。
購入する不動産の価値
不動産投資で融資条件を有利にするには、「購入する不動産の価値」も重要です。
もし、個人属性に問題がないにも関わらず融資がおりないのは、投資する不動産の価値が低いせいかもしれません。
不動産投資では、ローンを組むにあたって投資物件自体を担保に入れます。
なんらかの理由で金融機関へのローン返済が滞ってしまい返済の目処が立たなくなった場合、金融機関は担保にした物件を売却し、そのお金をローン返済に充当します。
そのため、損失を出すことなく元金を回収できるだけの担保価値があるかがきびしく審査されるのです。
担保価値は一般的に、積算法と収益還元法という2つの方法で評価されます。積算法は物件の土地評価額と建物の評価額を合わせて計算します。
収益還元法とは、物件の家賃収入に対して、不動産に対して期待される収益の標準的な利回りで割り戻す方法です。
たとえば年間家賃収入が100万円で、標準利回りが4%の場合は以下の計算になります。
100万円÷4%=2500万円
この2つの方式で計算された数字を基に、担保価値が評価されるのです。
また、物件自体の持つ収益力も評価されます。収益力は以下のポイントが評価されます。
- 入居者のニーズが高いエリアか、今後も賃貸ニーズが下がらないかなど
- 収益物件付近の利便性(駅からの距離、近隣の買い物施設や公共施設の有無など)
- 大規模修繕履歴(必要な修繕はおこなわれているか、いつおこなわれたか)
- 実質利回りはどのくらいになるのか
収益性が低ければ毎月の家賃収入が得られず、ローン返済が滞る可能性が高まるため、個人属性が高くても融資が下りない可能性があります。
このように物件の価値は、担保性と収益性から評価されます。
高く売れて、きちんと家賃収入が得られる物件は価値が高いとみなされ、融資が付きやすくなるでしょう。
不動産投資における融資の上限額
不動産投資における融資額の上限は、年収の7倍~10倍程度まで可能であると言われています。
年収500万円の方であれば、3,500万円~5,000万円まで融資を受けられるということです。
しかし個人属性や物件の価値によっては年収の7倍以下になる場合もありますし、逆に年収の10倍以上の融資を受けられる可能性もあるのです。
融資の上限額などについて詳しくはこちら!>>不動産投資ローンは年収の何倍が融資上限?融資審査を有利にする方法
属性を上げて与信枠を増やすヒント
同じ年収でも属性を上げることで融資限度額が高まる可能性があります。ここでは属性を改善することができるポイントについて詳しく解説します。
クレジットカードを解約する・限度額を下げる
クレジットカードなどの残債があると属性が下がり、与信枠が少なくなってしまいます。たとえ利用していなくても、クレジットカードを保有しているだけでカードローンの属性は下がってしまう可能性があります。
そこで属性に不安のある場合は、使用頻度の低いクレジットカードの限度額を引き下げるのも属性改善に有効です。手続きをすれば可能ですし、使っていないカードは解約するとさらに属性が改善し、与信枠を増やすことにつながるでしょう。
収入を増やす・安定させる
前述したように年収が高いほど属性は高くなりますが、勤め先の会社で給料を急激に増やすのはむずかしいです。
会社の給料が増えないなら副業で増やせばよいかというと、そうではありません。実は副業で得た収入は定期的な収入と認められにくく、かなりの高収入でもないかぎり大きな属性の改善にはつながりません。
また本業よりも副業の収入が増えたからといって独立してしまうと、勤続年数がリセットされてしまい、属性が一気に下がってしまいます。
預金があれば属性も高まりますが、一時的に余所から借り入れたお金を貯金しても当然ながら資産として評価されません。
むしろ、急にお金が増えたことで脱税などの疑いを持たれてしまうかもしれません。
収入を増やす方法としては、同業の企業からの引き抜きなどで給与の大幅アップなどが考えられます。
収入を増やすのがむずかしい場合は、支出を減らして収入を安定させましょう。
年収が多くても支出が多いと「浪費癖がある」とみなされ、融資に不利になるケースがあります。
反対に収入は高額でなくても、無駄遣いをせずにしっかり預金できる人は「お金の管理がしっかりできる人」と評価されて融資に有利にはたらきます。
自己資金を用意する
金融機関の融資審査では、自己資金(頭金)を多めに用意することで審査に通過しやすくなります。自己資金を増やせば借入額が減るため、金融機関側から見ると貸付が回収不能になるリスクが下がります。
必要な自己資金額は物件価格の1割~3割が目安となりますが、用意できる金額が多いほど、融資審査を通過できる確率は高くなります。
また自己資金を増やすことで融資審査を通過しやすくなるだけでなく、毎月のキャッシュフローを増加させるメリットもあります。
不動産投資ローンの返済は住宅ローンとは異なり、家賃収入を原資とします。そのため借入額が多いと毎月の返済額も膨らみ、結果的に毎月のキャッシュフローを圧迫するため注意が必要です。
住宅ローンや不動産投資ローンの借り換えをする
住宅ローンやほかの不動産投資用物件のローンの残債がある場合は、それらローンを見直して借り換えなどをすることでローン返済額の減少や毎月の収支の改善が期待できます。ローンの剤債が減れば、次のローン返済の確実性が高まり、新たな借入をしやすくなります。
まずは現在の金利をどれだけ下げられるか確認することが重要です。無料の借り換え診断や借り換えの提案をしてくれるオンラインサービスもあるので、今よりも低い金利で借り換えができないかを検討してみましょう。
ただし不動産投資ローンの借り換えは、現在ローンを組んでいる金融機関からの信用を損なう可能性に注意しましょう。不動産投資家にとって金融機関は重要な事業のパートナーです。
借り換えができそうだからといって、すぐに別の金融機関で借り換えてしまうと、元の金融機関から見れば計画どおりの利息収入を見込めず、損をしてしまいます。また、一度悪い印象を与えてしまうとこれまでと同じ付き合いをするのはむずかしくなる可能性があります。
ローンの借り換えを検討する際は、借り換えすることで得られる金銭的なメリットがあるかどうかを確認したうえで、金融機関との関係性なども考慮しながら実行するかどうか決めるとよいでしょう。
ただ、今後も長期的な金融機関との関係を維持したいのであれば、安易に借り換えをおこなわないほうが無難と言えるでしょう。
なお借り換えによってローン残債を減らしても、すぐに信用情報が高まるわけではありません。すでにローン返済が滞り、信用情報が大きく低下している人は、信用が回復するまで相当な時間が経過しないと信用情報が改善されないと考えておくべきです。
与信枠の決め方は金融機関によって異なる
先にも述べたように、各金融機関は、融資審査の際にどのような基準で評価しているかといった具体的な審査内容は公表していません。
そのため、「どういった人にどのくらいの融資をするか」といった基準は、金融機関によって大きく異なります。
各金融機関の融資条件などを見ると、「年収500万円以上」と具体的な年収を記載していたり、「原則として安定した収入がある」と年収には触れずあいまいな記載だったり、「主婦」への融資に積極的な金融機関もあります。また融資限度額や借入期間もさまざまです。
借入期間について、法定耐用年数を超えた物件は融資を受けるのがむずかしいと一般的に言われますが、すべての金融機関でそうであるかというと、法定耐用年数を超えた収益物件にも融資をしている金融機関は少ないながらも存在しています。
そういった金融機関は、不動産の評価などを独自におこなっている場合がほとんどです。
このように、金融機関によって審査基準が異なり、また融資審査には数多くの要素が影響するため、最終的には審査を受けてみないとわからない部分が多いです。そのため事前に集めた情報だけで融資審査を諦めず、多くの金融機関を訪れて話を聞いてみることをおすすめします。
まとめ
不動産投資の融資について、与信枠の決め方や融資限度額、属性の上げ方について解説しました。与信枠は個人属性と物件の価値によって決まります。そのため属性や物件の価値が低いと与信枠も低くなってしまい、融資審査に通過できなくなってしまうため注意が必要です。
不動産投資における融資額の上限は、年収の7倍~10倍程度が一般的です。融資審査に通過するためには、自身が受けられる融資限度額を想定したうえで、無理のない範囲でローン返済ができる、価値の高い収益物件を選ぶとよいでしょう。